近年、気候変動による異常現象が頻発し、各国は多大な資源を投入するとともに、さまざまな産業が運営を見直し、省エネルギーや脱炭素、持続可能な発展を目指す動きが加速しています。
中でも医療産業は、その特殊性と必要性から特に注目を集めています。今回は、この持続可能な発展という大きな流れの中で、医療産業がどのように対応・適応し、多方面のニーズに応えるべきかについて考察します。
BE Health 医療事務マネージャー 陳長溢
医療におけるカーボン排出の現状
医療機関はその特性と不可欠な役割から、大量のエネルギーを消費して業務を遂行し、突発的な事態にも対応しています。このエネルギー消費には、日常業務に必要な電力、診療で使用される医療製品や化学物質、医療機器、感染性廃棄物などの処理、さらに職員や患者の通勤、業務訪問に伴う交通手段などが含まれます。これらによって、医療機関からは膨大なカーボン排出量が発生しています。
統計によると、世界の医療システム全体が排出するカーボンフットプリントは20億トンの二酸化炭素換算(CO2e)に達し、これは世界全体の純カーボン排出量の約4.4%を占めます。この排出量は石炭火力発電所514基の年間排出量に相当します。仮に医療システム全体を1つの国と見なすと、世界第5位の排出大国となる規模です。
現在、医療システムが国内カーボン排出量に占める割合が最も高い国はアメリカで7.6%、次いで日本が6.4%、韓国が5.3%、EUと中国がそれぞれ4.7%と3.1%を記録しています。台湾は小さな島国でありながら、医療システムが高度に発達しているため、国内排出量の4.6%を占め、世界平均の4.4%を上回っています。
温室効果ガスプロトコル(Greenhouse Gas Protocol, GHG Protocol)によれば、温室効果ガスの排出は以下の3つのスコープに分類されます。
スコープ1: 病院設備や車両、プロセス排出、廃棄物処理など、施設からの直接排出で、全体の約17%。
スコープ2: 購入した電力や熱、蒸気などのエネルギー消費に伴う間接排出で、全体の約12%。
スコープ3: サプライチェーンや患者・職員の通勤、出張、廃棄物処理など、自社の管理外で発生する排出で、全体の約71%。
台湾政府は現在、カーボンニュートラルの実現と温室効果ガス削減に向けた取り組みを進めています。これに応じて、医療機関もエネルギー利用効率を高めるための適切な対策を講じ、2030年の排出削減目標、そして2050年のカーボンニュートラル達成を目指す必要があります。
対策と具体的な取り組み
台湾永続エネルギー研究基金会(TAISE)の資料によると、ヘルスケア体制の持続可能な発展を実現するために、医療機関が取るべきESG(環境・社会・ガバナンス)戦略には以下のような方向性が挙げられます。
環境保護
持続可能な環境政策の策定、温室効果ガスの管理、創エネルギーおよび省エネルギーの推進、汚染防止と予防、安全衛生管理、災害防止および情報セキュリティ管理、廃棄物管理などが挙げられます。
社会的責任
人材育成、キャリア開発、ジェンダー平等、職場の健康、従業員の福利厚生と権利の保障、社会貢献、弱者層のケアおよび医療協力を重視する必要があります。
ガバナンス
経営戦略や管理制度の見直し、医療倫理、医療評価、研究開発、ステークホルダー管理、誠実で透明性のあるガバナンスの実施が重要です。
一方で、台湾の衛生福利部は以下の戦略を通じて、医療機関のグリーン転換を支援しています。
公立医療機関の新築や施設拡張時に、グリーンビルディング基準の遵守を義務付ける。
経済部エネルギー局が、省エネ対策に対する補助金や奨励金を提供。
医療機関のカーボンニュートラル化推進のため、専門団体に委託して支援計画を実施(カーボンニュートラル専門家の育成、指針の策定、普及活動の実施など)。
2050年までのカーボンニュートラルは世界共通の目標であり、ヘルスケア体制においても、この目標を達成するためには医療政策の適切な計画と、医療機関全体での具体的な取り組みが必要です。これにより、環境の持続可能性を確保することが期待されています。
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